kakinohazushi of 柿の葉ずし 総本家 平宗

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平宗と柿の葉ずしとの最初の縁は、明治時代のこと。
奈良・吉野で料理旅館を営んでいた当時、地元の家庭料理であった柿の葉ずしを、遠来のお客様にお出ししたのが始まりです。
その昔、山深い吉野では、海の魚は村人たちにとって貴重な食料でした。人々は、魚をいつまでも美味しく食べるために、熊野でとれた鯖の塩漬けを、ご飯と合わせ、抗菌・防腐作用に優れた柿の葉でくるみました。この手法は、保存性と共に、格別の風味をも増したのです。
柿の葉ずしは、ひとえに「美味しい魚を食べたい」という、まっすぐな想いと知恵から生まれたものでした。





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命である食材は、天然・自然のものを、妥協せず吟味してご提供すること。
そして、製造、販売、接客など、サービスの隅々に至るまで、「美味しい押し鮨を食べたい」という、皆様の純粋な想いにおこたえし続けることです。
合理化・効率化という時勢の流れや、消費者ニーズの変化に対応しながらも、これらは決して失ってはならないものと心得ております。
今でこそポピュラーな食品となった柿の葉ずしですが、この素晴らしい食文化を、文化たらしめるまでの時間と辛苦は、誰よりも重ねてきた自負があります。
おこがましくも「総本家」の名を冠する者として、私たちは、一個の柿の葉ずしにこめられた、先人たちの熱い想いと長い歴史を大切にして、これからも努めて参ります。



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鯖の薄切りをご飯に載せ、柿の葉でくるむ。すし箱に入れて押しをかける。この一見シンプルな製法に、実に奥深い意味がこめられています。
まず、柿の葉に含まれるタンニンには抗菌・防腐作用があり、鯖の身をしめる効果があります。また、柿の葉の良い香りが生臭さを消し、魚の滋味がすし飯に移り、独特の芳醇な味わいを生み出すのです。


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「柿の葉ずし」が奈良の名物である以上、当然奈良のお米を使います。四方を山に囲まれ稲作環境に優れた地理条件、県南部の吉野山地に降り注いだ雨水を奈良盆地に送水する吉野川分水のおかげで、豊かな清流が稲作地を潤します。奈良の自然に育まれた奈良県産のヒノヒカリをシャリに使用しています。


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『細雪』『痴人の愛』など数々の名作を残した昭和の文豪・谷崎潤一郎は、随筆『陰翳禮讚』の中で、吉野の家庭料理として柿の葉ずしを紹介しています。

その製法や味わいを詳細に綴り、「東京の握り鮨とは格別な味」「或る意味でわれゝの想像も及ばぬ贅沢」など、その美味を絶賛しているのです。

「食通」と呼ばれる作家や文筆家は少なくありません。森羅万象、人心の機微を言葉にする卓越した感受性が、食へも向けられたのでしょう。